理事長挨拶

R a a S (ラース) の研究開発

半導体を製品として売るのではなく、
サービスとして提供する。

PROFILE

黒田 忠広

東京大学 大学院工学系研究科付属
システムデザイン研究センター長

 半導体産業でゲームチェンジが起きています。世界は専用チップの自社開発に乗り出しました。半導体戦略の見直しが必要です。

 半導体ビジネスは、これまで汎用チップが主役でした。その理由は、コンピュータがフォン・ノイマン・アーキテクチャを採用しているからです。プロセッサとメモリを大量生産してハードウェアを普及させ、ソフトウェアでさまざまな用途に展開する。これがコンピュータの成長戦略でした。
 汎用チップのビジネスは、デバイスのイノベーションで始まり、資本競争で勝敗を決します。日本はデバイスのイノベーションでは勝ちましたが、資本競争で敗れました。

 専用チップが成功した時代もありました。1980年代にCAD技術が研究開発され、ツールベンダーが誕生しました。半完成品のチップを予め製造しておき最後に配線をカスタマイズするセミカスタム製造方式も開発されました。
 こうした設計開発のイノベーションによって開発効率は一気に3桁高くなり、ASICでも採算が取れるようになりました。しかし、15年後にはムーアの法則によって集積度が3桁増え、コンピュータを駆使してもかつて以上に人員や時間がかかるようになりました。その結果、ASICビジネスは採算が取れなくなりました。
 このように専用チップの時代は、設計開発のイノベーションで幕が開き、ムーアの法則で幕を閉じました。

 現代、再び専用チップが求められる背景には、データ社会特有の「エネルギー危機」があります。データが急増し、AI処理が高度化して、エネルギー危機に拍車がかかっています。
 このままいくと、2030年には現在の総電力の倍近い電力をIT関連機器だけで消費し、2050年にはそれが約200倍になると予想されています。デジタルトランスフォーメーションに莫大なエネルギーを費やして地球環境を破壊することになるのなら、サステイナブルな未来は望めません。
 こうした状況下では、エネルギー効率を10倍高めた者だけが、コンピュータを10倍高性能にでき、スマートフォンを10倍長く使えます。あらゆるタスクをこなせる汎用チップに比べて、無駄な回路をそぎ落とした専用チップはエネルギー効率を桁違いに改善できます。専用チップが求められる理由がここにあります。

 さらに、AI処理に用いられる神経回路網はデータを並列処理するので、逐次処理をするフォン・ノイマン・アーキテクチャでは性能を引き出せません。AIアクセラレータのための専用チップが世界中で開発されています。また、ムーアの法則が減速していることも専用チップの時代の追い風になっています。

 ところが、専用チップの開発は誰にでも簡単にできるものではありません。チップに集積されるトランジスタ数は世界人口を超えようとしています。開発費は近年急増して100億円にも達する勢いです。数100人の設計者を配しても開発に数年を要します。技術進歩が早い現代においては全く間に合いません。
 ソフトウェアは、バグがあっても後でパッチを当てて修復できます。しかし、ハードウェアは完璧に仕上げなければなりません。ハードウェアはソフトウェアより設計が難しくて開発リスクが高く、”hard”です。
 もし、ソフトウェアの開発に用いられるコンパイラーのような技術がチップの開発にも用いられたならば、すなわちシリコンコンパイラーができたならば、ハードウェアの開発費が下がりリスクも下がるでしょう。ハードウェア設計者の人口も増えます。やがてオープンソースの文化が根付き、エコシステムのネットワークが重層的に拡大発展すれば、マスコラボレーションも可能になるでしょう。そうなれば、まさにソフトウェアを書くようにチップを作ることができます。
 かつてアラン・ケイが「ソフトウェアを本気で考える人たちは、自分でハードウェアを作ることになる」と言いました。システム開発には、ハードウェアとソフトウェアの両方が必要です。

私たちの目標は、シリコン技術の民主化(democratize access to silicon technology)です。シリコンコンパイラーをイノベーションし(design chips as writing software)、短時間でプロトタイプを作れる開発プラットフォームを創出します(agile authentic prototyping)。
 技術目標は、開発効率10倍かつエネルギー効率10倍です。開発効率を高めるために、アジャイル設計プラットフォームを創出し、オープンアーキテクチャを展開します。また、エネルギー効率を高めるために、チップを先端CMOS技術で製造し、3次元実装します。

半導体を製品として売るのではなく、サービスとして提供する。そのための技術をRaaS(ラース)は研究開発します。

概 要

先端システム技術研究組合 Research Association for Advanced Systems

R a a S とは

先端システム技術研究組合(略称RaaS:ラース)は、最先端の半導体技術を誰でも活用できるように
サービスとして提供します(Research as a Service)。
 技術目標は、開発効率10倍かつエネルギー効率10倍です。開発効率を高めるために、アジャイル設計プラットフォームを創出し、
オープンアーキテクチャを展開します。また、エネルギー効率を高めるために、チップを先端CMOS技術で製造し、3次元実装します。
 ユーザーはソフトウェアを書くように専用チップを作り、デジタルトランスフォーメーションを実現することができます。

価  値
シリコン技術の民主化(Meaning: democratize access to silicon technology)
目  標
短時間プロトタイプ開発(Mantra: agile authentic prototyping)
イノベーション
シリコンコンパイラー(Next curve: design chips as writing software)